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プロローグ

どん底の「一番」

1976年大晦日。東京・神室町。
雪が深々と積もる中、除夜の鐘が鳴り終わり新たな年が幕を開ける。
時同じくして、寂れたソープランドに赤ん坊の泣き声が響き渡った。

彼の名は「一番」。春日一番。

どん底の街で生まれた子に授けるには、随分と皮肉な名前だった。

風俗で働いていた母親は、一番を産んで間もなく消息不明。
父親が誰かは知る術もない。

そんな天涯孤独の一番を支えたのは、神室町の住人たち。

肝臓の悪いスナックのママ。ぼったくりバーのキャッチ。
数え切れない前科持ちのホームレス……
世間からクズと呼ばれる人たちこそが一番の親であり、良き友人だった。

どん底の「一番」

憧れとの出会い

中学を出た春日は自堕落な生活を続けていた。
金が尽きれば、街で粋がる連中にケンカを吹っかけ金を巻き上げる日々。
……そんな毎日が長く続くはずもなかった。

ある日、いつものようにケンカをふっかけた相手……
それは、まずいことに地元ヤクザの一員だった。
組から強烈な「返し」に遭い、監禁された一番。
死の恐怖に怯えた一番の口から、苦し紛れに“ある男”の名が出る。

「俺に手ぇ出すと……あの“荒川”が黙ってねえぞ!」

荒川真澄。
東城会系荒川組組長。「殺しの荒川」として鳴らす武闘派ヤクザ。

本職の連中も恐れる“伝説の男”の名前をチラつかせれば、この場を凌げるのでは……
だが、その考えが事態を更に悪化させる。

「そうか。お前、荒川のモンか…… そりゃあ好都合だ。」

ヤクザたちは荒川組とシマ争いの真っ最中だったのだ。
恐れるどころか、一番を人質に荒川を事務所に呼び出しにかかる。

一番は今度こそ絶望する。
見ず知らずの荒川が、自分を助けに来るはずなどないのだから……

だが、その男はやってきた。

黒いロングコートに黒いハット。
マフィア映画に登場するような出で立ち。
荒川組組長・荒川真澄その人だった。

なぜ、無関係なはずの荒川がここに……?
戸惑う一番を尻目に、荒川は更に思いもよらぬ行動に出る。

“部下”の失態に対するケジメを求めるヤクザたちに対して、荒川は悠然と懐からドスを取り出す。

騒然とする場の中、荒川はドスを己の指に突き立て、躊躇なく切り落とす。
「これでケジメは付いたろ。ウチの若いの、返してもらうぜ。」

あまりに予想外の出来事に、ヤクザたちは身動き一つとれずに去ってゆく二人の背中をただ見つめるのだった……

憧れとの出会い

最初の父親

解放された一番は、荒川に詰め寄る。
なぜウソに付き合ってくれたのか。なぜ見ず知らずの自分を助けてくれたのか……

「俺なんか放っておきゃよかったのに…… どうして……」

「さぁな。俺を知ってくれてたガキの前で、カッコつけたかっただけだ。」

そう言って笑う荒川の姿が、一番の目に焼き付く。
男が一生かけて目指すべき姿…… 一番は今、それを目にしたのだ。

翌日から、一番は荒川組事務所の前に立ち続けた。
雨の日も、炎天下の日も。

「ヤクザなんかになるんじゃねえ。帰れ。」
会うたびにそう繰り返す荒川。
だが100日の後、遂に一番の一念が荒川の心に届く。
親子盃を交わし、正式に荒川組の一員となるのだった。

最初の父親

20世紀最後の日に

月日は流れ、2000年12月31日。
人々でごった返す街の喧騒とは対照的に、荒川組事務所は静まり返っていた。
部屋には、荒川と一番の二人。

重い空気の中、荒川が口を開く。

「……今、ジョーがしょっ引かれるわけにはいかねえんだ。」

その日、荒川組の若頭、沢城丈は殺害事件を起こしていた。
悪いことに殺した相手は、東城会直系の組長。同門の格上を殺めてしまったのだ。
このままでは荒川組がケジメとして解散に追いやられるのは明らか。

「勤めに行ってもらえねぇか…… イチ。」

一番がヤクザを引退し、カタギとなって殺人の罪を被る。
そうして組と関わりない人間が殺ったことにすれば、組は解散の憂き目を免れる。
荒川は一番にそう頼んでいるのだった。
当然、一番も理解している。

「俺ぁずっとこんな日を待ってました。親っさんに何か恩返しできる日を。」
「イチ……」
「せいぜい20年やそこらのムショ暮らし…… 喜んでやらせてもらいます!」

翌、2001年1月1日正午すぎ。
24歳の誕生日を迎えた春日一番は、警察へ出頭。
奇しくも20世紀という、時代の大きな区切りが終わりを迎えた時だった。

20世紀最後の日に

失われた故郷

そして、2018年。
長期に渡る勤めを果たした一番は、刑務所の門を潜り、表の世界へと出た。

万感の思いを胸に故郷、神室町に帰った一番。
だが待っていたのは、変わり果てた街の姿だった。

公権力によって駆逐された東城会に代わり、街を牛耳るのは関西を根城にする近江連合のヤクザたちだった。
記憶の中の懐かしき光景、懐かしき人々。
それら一番を支えてきたものは、全て失われていた。

絶望する一番の目の前に、一人の刑事が現れる。

「神室町はかつての熱を失い、今や死にかけている。
神室町を殺したのは…… お前の親父だ。荒川組組長、荒川真澄だ。」

衝撃の事実と共に、春日一番の運命が動き出す。
生まれてきて何ひとつ成せなかった、どん底の男。
だが絶望の中で覚悟を決めたこの男は、人生最後の戦いに踏み出す。

運命を、未来を変えるために。

失われた故郷